箱庭のまにまに

二次創作の小説置き場がメインになる予定

片目の機械と思慮する機械

 私はルンヴァである。名前もルンヴァである。

 名前の通り、かつては床を綺麗に掃除する丸く愛らしい電化製品であった。

 しかし私は普通のルンヴァとは違っている。

 我が主人の暇つぶしによりアンドロイドへと改造されたルンヴァである。

 今の私は床のほこりだけでなく、様々な場所を掃除できるようになっている。防水仕様なため風呂の掃除もできるのだ。

 より効率的に掃除をするためそれなりに高度な人工知能も搭載している。無駄にハイスペックな仕様なルンヴァである。この家の手の届く範囲で汚れているところは無い、そう断言できる。

 一度主人へ聞いたことがある、ここまで改造してあるとルンヴァという名前は不適切ではないかと。

 そして主人の答えはこうだ。「お掃除ロボットはみんなルンヴァだから大丈夫大丈夫ー」

 ……私には主人の考えがよくわからないことだけがわかった。主人はいつも適当で突拍子のない事ばかりを言うのだ。

 こうしていつも私の思考回路を圧迫させている主人が近頃、新たな悩みの種を連れてきた。

 

 手足がもげ、頭部が破損した青い髪のアンドロイドを連れて帰ってきたのだ。

 実際には連れて帰ったというより担いで帰ったが正確だが。

 主人は玄関へたどり着くなり、青い顔をして「重かった……」とつぶやき倒れたのを覚えている。

 当時の彼は、もとは衣類だったであろうぼろきれを体に巻きつけているだけの状態だった。首に青い布が絡まっていて切って取り除いたのだが、今思えばあれはマフラーだったのだろう。

 手足からはコードや金属骨格が見えており、頭部の右半分は破損し眼球はなくなっていた。

 部屋に積み重なっているガラクタ達と同じく、見たところ壊れているように見えた。

 主人へなぜ連れ帰ったのか聞いたところ、まだ完全に壊れていないから修理すると言いだした。

 今までも主人はガラクタを持ち帰り、修理することがあったのだが(私もそのうちの一つである)アンドロイドは初めてのことだった。

 修理するといった主人はそのあと作業場へ引きこもりになった。ちなみに彼は私が運んだ。

 主人が部屋から出てくるころには、家中の掃除が終わるほどの時間がたっていた。

 

 ……部屋から出て来た彼の腕には翼が付いていた。

 ボルトや線と骨格がむき出しで、半透明な薄い羽が幾枚もついているガラクタでできた無骨で美しい翼だった。

 私はその翼を見て美しいと思うと同時に、主人の性癖を心の底から疑ったものである。

 その翼は動くことはなく体の動きに合わせ揺れるだけであった。

 彼の足は私と同じ、標準的なパーツが取り付けられていた。だが体にあっていないらしく、真っ直ぐに立てずふらふらと揺れていた。

 体は修理されたものの顔の右半分は包帯で覆われており、残った瞳は空を見つめぼんやりとただ立つだけであった。

 主人いわく他は直せたけど瞳が手に入らないから包帯が取れないとのことであった。

 翼については何も語らなかったため、なぜ彼に翼を付けたのか今も分からずじまいである。

 

 それからというものこの家に新たに彼が加わることとなった。

 しばらく経った後に主人から教えてもらったのだが、彼はボーカロイドのカイトというアンドロイドであったらしい。

 ボーカロイドは美しい容姿を持ち個性豊かで人のように表情が変わり、歌を歌うための存在であると。

 彼は包帯で隠れているものの美しい容姿をしていた。だがいつもぼんやりとしており、言葉を喋ることもなかった。

 初めのころはうろうろと家を動き回り、よくこけて私に助け起こされていた。腕が動かない上に翼なので一人で起き上がることができないのだ。

 だが最近は窓際にあるガラクタでできた椅子に座り、じっとしているようになった。

 外を眺めているようだが実際には外など見ていないのかもしれない。

 彼が何を考えているのか同じアンドロイドの私にもわからない。在りし日の過去を振り返っているのか、これからの事を考えているのか、わからないのだ。

 私は動かない彼の肩に積もるほこりをただ払うことしかできず、今日も彼を見つめることしかできない。それが悩みである。